地震予想の基礎その2

太陽活動ー大気質量再分配ー地震発生の関係

1、地震に関連する地圏 −大気圏−電離圏結合

まず、わかりやすいところからお話します。東京学芸大学教育学部物理学科 加茂川仁先生のサイト。こちら

この中では、

「大地震や津波が大気重力波等を通して電離圏まで影響を与えることはよく知られています。。一方、地震時・後のみならず地震前においても電離圏擾乱が見られ るという指摘が80年代ぐらいからされており議論が盛んです。現在は、メカニズムが仮説の段階であること、統計的解析が不十分な場合も多いため現象の存否 については決着がついていません。しかし、近年のいくつかの論文では、統計的に有意なものがあり、さらに研究する必要があります。」

2、地表面の震動は上空の電離層にまで伝搬する

1をもう少し説明します。

行徳地震前兆電波観測プロジェクト;センターだより 2006.12.12発行No.33 にわかりやすく書いてありますので、それを引用します。こちら

地震や核実験の後に、地表面の震動が音波モードあるいは大気重力波モードで上空の電離層にまで伝搬し、電離層電子密度変化をもたらすことが知られています。

分かりやすい例で示します。2006年11月4日に読売新聞で発表された、核実験と日本上空の「電離層」の増減です。
こちら。

北朝鮮が核実験を実施したとされる10月9日午前、日本上空の「電離層」で、電子が増減する現象があったことを京都大理学研究科の斉藤昭則助手らのグループが確認した。
電離層は、太陽の放射エネルギーを受けた大気が電子とイオンに分かれている領域で、電波を反射する。斉藤助手らは、国内約1200点の全地球測位システム(GPS)受信機のデータを解析し、電離層内の電子数を調べた。その結果、北朝鮮が核実験したとされる時刻の1時間後、10月9日午前11時半から40分間、電子数が増減していたことがわかった。

次に、スマトラ沖地震;2004年12月26日 M9.3と電離層の変動です。こちら

名古屋大学太陽地球環境研究所STEL 大塚雄一氏によるSTEL NEWS LETTER No45.2006年11月。
この地震では、津波だけではなく“大気の波”も引き起こされ、高度300 km 上空の電離圏にまで届いていたことが明らかになった。

このように、地表面の振動が音波モードあるいは大気重力波モードで電離層にも影響を及ぼしているならば、当然その中間に位置する対流圏への影響も考えられる。

3、地震電磁気現象

地震や火山活動などの地殻活動に先行する電磁気現象の観測例が世界各地から多数報告されています. 例えば,地電位差観測,地球磁場観測,VLF帯局電波等の伝搬状態の観測データ等が挙げられます。
千葉大学理学部地球科学科服部研究室のサイトから引用します。詳細はこちら

地殻活動に関する電磁気学的な研究は,日本・ギリシャ・ロシア・中国・米国・台湾・イタリアなどで盛んに進められています. 地震に先行する電磁気学的現象は以下の3種が報告されています.


1. 震源から発生する先行信号と考えられるもの
○ギリシャ VAN法の直流域信号 (SES)
○ULF〜ELF〜VLF〜LF〜HF領域にわたる幅広い周波数帯域での地磁気,地電位差変動

2. 震源域上空の電離圏・大気圏に起因する電波伝搬の異常と考えられるもの
○オメガ電波 (VLF) の異常伝搬
○FM放送波 (VHF) の散乱
電離層電子密度の異常変動;(この変化を捉え、地震型電離層を知ることができる。)

3. 衛星で観測される温度異常等
電子密路 / 温度異常,DEMETER,FORMSAT3 / COSMICなど.
中間赤外、熱赤外異常,MODIS,AVHRRなど.

これらの詳細な文献を紹介します。

地震に伴う電磁気現象    jishindenjiha.pdf へのリンク

地震に先行するVHF(FM放送波)散乱波の観測的研究  jishindenjiha_hokudai.pdf へのリンク

4、太陽活動ー大気質量再分配ー地震の関係

本サイトの目次1にサイト開設以来、紹介しているロシア国立水理気象学大学地震予知科学研究室のヴィクトル・ボコフ博士。

ボコフ博士のサイトに紹介されている文献で大事であると思われるものは、目次1に文献名とともに記載しています。

Khain V.E., Khalilov et al: POSSIBLE INFLUENCE OF SOLAR ACTIVITY UPON SEISMIC AND VOLCANIC ACTIVITIES:LONG-TERM FORECAST SCIENCE WITHOUT BORDERS. Transactions of the International Academy of Science H &E.Vol.3. 2007/2008, ISSN 2070-0334

この中のP227 L26に次のように記されています。
The mechanism of dependency is that in connection with the amplification of the solar activity the perturbation of quasistationary state of the atmosphere occurs, that leads to the redistribution of atmosphere mass on the Earth, that is center-of-gravity motion of Earth ? atmosphere, and consequently, deformation of the Earth.
太陽活動ー大気質量再分配ー地震の関係を詳細に述べています。

次にもう少し具体的に日々の地震発生と太陽活動を調査した文献の紹介です。

On the relation between solar activity and seismicity
Gousheva, M.N.; Georgieva, K.Y.; Kirov, B.B.; Antanasov, D.
Recent Advances in Space Technologies, 2003. RAST apos;03. International Conference on. Proceedings of
Volume , Issue , 20-22 Nov. 2003 Page(s): 236 - 240

summaryです。

Much attention is recently paid to the role of extraterrestrial factors in terrestrial seismicity, and to the possibility to assess the seismic risk. Seven centuries of records of ancient earthquakes in the Mediterranean region show that the century-scale variations in the number of strong earthquakes closely follow the secular cycle of solar activity. Two well expressed maxima in the global yearly number of earthquakes are seen in the 11-year sunspot cycle - one coinciding with sunspot maximum, and the other on the descending phase of solar activity. A day to day study of the number of earthquakes worldwide reveals that the arrival to the Earth of high speed solar streams is related to significantly greater probability of earthquake occurrence. The possible mechanism includes deposition of solar wind energy into the polar ionosphere where it drives ionospheric convection and auroral electrojets, generating in turn atmospheric gravity waves that interact with neutral winds and deposit their momentum in the neutral atmosphere, increasing the transfer of air masses and disturbing of the pressure balance on tectonic plates. The main sources of high speed solar streams are the solar coronal mass ejections (CMEs) which have a maximum in the sunspot maximum, and the coronal holes with a maximum on the descending phase of solar activity. Both coronal holes and CMEs are monitored by satellite-borne and ground-based instruments, which makes it possible to predict periods of enhanced seismic risk. The geoeffectiveness of solar wind from a coronal hole only depends on the position of the hole relative to the Earth, and for the CMEs an additional factor is their speed. It has been recently found that a useful tool in identifying the population of geoeffective CMEs is the detection of long-wavelength (decameter-hectometer) type II solar radio bursts, as the CMEs associated with them are much faster and wider than average.

上記の赤線部分を主として読んでいただくとわかりますが、高速太陽風などによるコロナ質量放出による太陽のエネルギーは地圏のプラズマ対流やオーロラに変換され、大気重力波に変換され、大気質量再分配が起こり、地震が発生すると述べています。


ここで大気重力波と地震の関係がでてきますので、国内での研究例を紹介します。


4、さざなみ雲と大気重力波

○さざなみ雲

さざなみ雲は元東大地震研究所 応用理学 技術士である宇田進一氏が名づけた。

「さざ波雲」と言うのは幅が約10キロを超え、肉眼では判断しにくいので衛星画像を使って判断します。
「さざ波雲」発生の原因は大気重力波が関連しているらしいですが、明確にはされていません。

○大気重力波

大気重力波は、わたしたちにとって、とても身近な自然現象です。大気重力波とは、海の波と同じように、高度80〜100キロ上空で、大気中にできている波のことです。海面に波がたって揺れているように、大気も波がたって揺れているのです。 普段、気が付くことはほとんどありませんが、大気の中は波が満ち溢れています。
他には、山岳波もあります。TVの天気予報などで見ることができる人工衛星「ひまわり」からの映像の中で、雲の部分を気をつけてみていると、大規模な山脈の風下に、畑の”うね”のように連なった規則的な雲を見ることができます。
これは山岳波とよばれているもので、大気重力波より生成する高さが低い。
大気重力波は大気中の波の1種で、海面の波と似たしくみでできています。大気の波なので肉眼で見えませんが、映像なら緑色にとらえる事が出来ます。
世界中"いつでもどこでも"起きている一般的な自然現象です。

上記のように地表面の震動は音波モードあるいは大気重力波モードで雲ができる対流圏のみならず、上空の電離層にまで影響を及ぼすことはわかると思います。それでは、地震の前に生じる地表面の振動(微振動)でできるさざなみ雲や大気重力波で地震を予想することはできるのでしょうか。

まず、さざなみ雲です。他にも多数。

●宇田 進一(2004),宇宙から見た雲の漣状構造による地震予知の的中率(的中数/予測数)(A030)(演旨),日本地震学会講演予稿集秋季大会,2004,,15-15,日本地震学会
●宇田 進一;宇宙から見た雲のさざ波状構造による地震予知の見逃し率および修正見逃し率(E100 P004)
UDA Shinichi(2005),Overlook rate of earthquake prediction by means of ripple like structure of cloud observed from space ,Abstracts, Japan Earth and Planetary Science Joint Meeting (CD-ROM),2005,,E100-P004,Oceanographic Society of Japan.
●宇田 進一;前多 美佳(2006),首都圏で発生する地震の直前前兆の特徴--宇宙から見た雲のさざ波状構造による地震予知法による--(E141-P012)(ポスターセッション)(演旨),日本地球惑星科学連合大会予稿集(CD-ROM),2006,,E141-P012,日本地球惑星科学連合

次に、大気重力波です。他にも多数

●宇田 進一(2007),宇宙から見た大気重力波の分布面積によって地震の発生を予知できるが,これは何を反映したものだろうか(E117-P009)(ポスター セッション)(演旨),日本地球惑星科学連合大会予稿集(CD-ROM),2007,E117-P009,

●謝辞

最近、テレビ報道特番やニュースなどで大地震の危険性とともに地震の予測についても、取り上げられるようになってきました。
4,5年前には考えられなかったことです。
これらは、宇田進一氏の多大な努力ならびに数多くの文献さらにはテレビ出演などにより、多くの方が地震の予知も可能ではないかと評価するようになったためであると思われます。

これらの功績に対し、私どもは深く尊敬と感謝の意を表します。

5、本サイトでの活用方法

本サイトでは、開設以来、ずっと、太陽活動と地震の関係を折を見て報告して来ました。古い読者の皆様はご存知の通りです。

その中で「高速太陽風などによるコロナ質量放出による太陽のエネルギーは地圏のプラズマ対流やオーロラに変換され、大気重力波に変換され、大気質量再分配が起こり、地震が発生する」とするボコフ博士たちの研究は壮大でかつ、日々の地震予想までされているというスケールの大きさです。

しかし、私たちが「衛星写真を使用して直接地震規模や震源や発生時期を詳細に予想すること」は、十年ほど前に特許が取得(特許名;人工衛星による雲観察で地震を予知)されており、不可能であると判断し、主として他の観測結果の裏づけとして活用しています。詳細に予想する場合には、特許所有者への許諾が不可欠です。

また、ボランテイアで無償で限れれた時間内で計算式に基づいて予想することは不可能です。本サイト内で投稿された衛星写真による大気重力波やさざなみ雲を上記の文献等により地震規模などをシュミレーションしたりすることは、時間の都合上できません。

さらには、地震予想の基礎1に示した観測結果の中で、岐阜県観測のラドン濃度や地電位、植物生体電位、各種ノイズ、地震型電離層の程度で地震の規模を大規模、中規模、小規模と大まかな判断をし、空の掲示板での各種地震雲(その中の一部としてのさざなみ雲や波状雲の位置づけ)で裏づけをし、本サイト内の「こちら遊コン観測所」の観測結果をマップ化したマップでさらに裏づけや予想の修正をしています。また、各地のボランティアの観測者の皆様の磁石落下装置も大きな予想判断の一部として活用しています。総合判断です。

これらの総合判断で、大規模、中規模、小規模と判断し、過去の周辺の地震規模などをみながら微調整をして予想しています。

私たちはボランティアで無償で、公開されている観測データなどから総合的に判断して地震予想をしています。

詳細な地震予想は私たちのようにボランティアではなく、専門スタッフが伴う中で、専業で従事しないと無理と判断しています。
そのため、特に地震発生期間を予想できる場合は少なく、直前前兆の磁石落下装置やFMノイズで日々報告し、発生予想をしていく形式にしています。

地震の完全な予想が完成するには、まだ30年や100年はかかると思います。